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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10322号 判決 1982年5月10日

原告 綿引孝之 外一名

被告 国 外四名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告綿引孝之に対し金一三六七万五〇〇〇円、原告綿引弘子に対し金一三一七万五〇〇〇円及び右各金員に対する昭和五三年五月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告国

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 担保を条件とする仮執行免脱宣言

2  被告住宅・都市整備公団

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告らの長女綿引敬子(昭和四七年九月六日生、以下「敬子」という。)は、昭和五三年五月二七日午後三時頃、日本住宅公団新座団地(以下「新座団地」という。)内である埼玉県新座市新座三丁目五番二号付近先の西側を流れる柳瀬川の水面(別紙図面中「X」地点、以下「本件事故現場」という。)に転落して溺死した(以下「本件事故」という。)。敬子が原告ら宅から本件事故現場に至つた経路は別紙図面記載の赤線のとおりである。

2  被告らの地位

被告国の行政庁である建設大臣は一級河川たる柳瀬川の管理者であり(なお埼玉県知事が建設大臣から本件河川の管理の一部の委任を受けている。)、被告住宅・都市整備公団(以下「被告公団」という。)は、昭和四五年九月二二日以降、新座団地の建物及びその敷地等の管理をしていたものである。

3  被告国の責任

(一) 本件事故現場付近の状況等

(1)  柳瀬川は、荒川水系の一級河川であり、本件事故現場付近における低水路(常に水が流れている部分、以下「流水路」という。)の幅員は一五メートルないし二〇メートル前後、その水深は浅いところで約三〇センチメートル、深いところで三メートル近くあり、流水路とその東側堤防との間には幅員約二〇メートルないし五〇メートルの高水敷(以下高水敷のことを「河原」といい、本件事故現場付近の河原を「本件河原」という。)がある。

(2)  新座市はもと広大な水田を有する農村地帯であつたところ、昭和四五年前後から人口の急増による都市化が進み、被告公団は同年九月頃、本件事故現場から直線で約五〇メートルの距離にある新座市新座一帯に総戸数二二〇七戸の新座団地の建設を完了し、同年一一月頃から居住予定者が入居したことにより、右地域は人口の増加に伴う市街化の様相を呈するに至つた。

(3)  新座団地の一部の居住者は、昭和四九年頃より本件河原に、木杭やビニールテープ等で区画した広さ数平方メートルないし二〇平方メートル程のいわゆる家庭菜園を作つており、右菜園の耕作者である一部の団地居住者や近隣の子供達などが本件河原に遊びに行き又は柳瀬川の流水路の浅瀬に水遊びに行くことがあつたうえ、新座団地側の堤防の天端(堤防の一番上の部分)から家庭菜園を通つて本件事故現場の水面直上の崖へ、そして右折して流水路の水際へ、踏みならされた一つのはつきりとした道ができあがつていて、家庭菜園の区画の役割も兼ねた木柵の仕切により自然に導かれるようになつていたので、大人は勿論子供であればなおさら本件事故現場の水面やその付近の河岸(流水路と河原との境の段差部分)に行つてみて、水遊びや石投げの一つでもしてみたい気持が起きるのは当然という状態の場所になつていた。

(4)  本件事故現場は、水深二メートル前後で、濁流でカーブしている場所であり、その河岸は雑草や赤土ですべりやすくなつており、水面から河岸へ上ろうにも手をかけるところがなく、大人でも万一転落入水した場合には自力ではい上ることは殆ど不可能な地点であつた。

(5)  昭和五三年四月小学校三年生の男子が本件事故現場で転落入水したのを含め、同月に転落入水事故は三件起きている(もつとも、いずれも死亡事故ではない。)ほか、本件事故以前に幼児らが柳瀬川の流水路とくに本件事故現場に転落入水した例は多くある模様である。

(6)  本件河原には高さ約一メートル前後の雑草が繁茂していて、堤防天端や右河原から流水路の状況の見通しが悪いので、新座団地自治会は本件事故の前にたびたび被告国に対し、右雑草を刈るよう申し入れたが、草刈りはなされなかつた。

(二) 被告国の管理の瑕疵

(1)  被告国は、前記のように本件事故現場付近の状況が農村地帯から一挙に都市化した状況に変貌したのであるから、柳瀬川の安全管理体制をそれに対応するよう変化させるとともに、前記のように堤防天端から家庭菜園を通つて本件事故現場へ至る踏みならされた一つのはつきりした道ができあがり、木柵の仕切により自然に導かれるようになつており、しかも本件事故現場は前記のようにきわめそ危険な場所であるから、転落等による水難事故を防止するために、以下に述べるように具体的な方法を講ずる義務があつたのに、それを怠つた。

(2)  一部居住者による家庭菜園及び木柵の設置は、本件河原を継続的独占的排他的に使用するもので、実質的には許可使用と同じであり、被告国は右設置を黙認していたのであるから、被告国が家庭菜園及び木柵を設置したのと同視すべきであり、それを除去せずに放置していたことは、被告国において家庭菜園及び木柵の設置管理に瑕疵があつたということできる。

(3)  被告国は、本件のような事故の発生が予想されたのであるから、河川の管理権により家庭菜園及び木柵を撤去させるとか、本件事故現場などの危険箇所の河岸の直近に転落防止のための防護柵を設置するとか、堤防天端上などに立入禁止や危険警告の立看板を立てるとか、堤防天端や本件河原から流水路の危険な状況を一望のもとに了解できるように本件河原の雑草を刈り取りなどの措置をとつて、事故発生の危険を未然に防止すべき義務があるのに、これらの措置を全くとらず放置していた。

(4)  したがつて、被告国の柳瀬川の管理には瑕疵があり、本件事故は、被告国の右のような管理の瑕疵によつて発生したものであるから、被告国は本件事故につき国家賠償法二条一項により損害賠償の義務がある。

4  被告公団の責任

(一)被告公団は、前記のように、昭和四五年九月頃、総戸数二二〇七戸の新座団地の建設を完了し、同月二二日より同団地内に管理事務所を設置して、団地敷地及び同敷地上の建物の管理を開始した。そして、被告公団は、新座団地西側から直線で約五〇メートルの距離のところに柳瀬川が流れていたので、同河川の河川区域との境界線に沿つて被告公団の敷地内に高さ一メートルの金網柵(以下「本件金網柵」という。)を設置した。   (二) ところが前記のように、新座団地の一部の居住者は、昭和四九年頃より本件河原にいわゆる家庭菜園を作り、その内の一部の者は、右菜園へ近道をするため、本件金網柵を三箇所にわたつて破壊したため、右菜園の耕作者である一部の団地居住者や近隣の子供達などが頻繁に本件金網柵の破壊された部分を潜り抜けて、容易に本件河原に遊びに行き又は柳瀬川の流水路の浅瀬に水遊びに行つていたため、転落等による水難事故の発生する危険性が増大していた。

(三) しかるに、被告公団は、本件のような事故の発生が予想されるにもかかわらず、破壊された本件金網柵の整備点検及び補修を怠り、金網柵が破壊されたまま放置して、事故発生の危険性を未然に防止すべき管理責任を遂行しなかつたので、本件事故につき国家賠償法二条一項により損害賠償の義務がある。

5  損害

本件事故により原告らの蒙つた損害は次のとおりである。

(一) 逸失利益

敬子は本件事故当時満五歳の女児であり、本件事故がなければ一八歳から六七歳まで就労可能であり、賃金センサスによれば昭和五二年の産業計企業規模計の女子労働者学歴計の年間収入金額は金一五二万二九〇〇円であるが、訴提起時たる昭和五三年一〇月現在においては、インフレによる貨幣価値の下落を考慮して右収入金額を一・一倍した金一二六七万五一九〇円を基準たる年間収入金額とし、新ホフマン式により中間利息を控除し、それから生活費として五割を控除し、さらに一八歳に達するまでの問の一か月につき金一万円の割合による養育費を控除すると、敬子の得べかりし利益は金一三九一万円(一万円未満切捨)となり、原告らは敬子の父母として各二分の一の金六九五万五〇〇〇円ずつを相続した。

(二) 葬儀費

原告綿引孝之(以下「原告孝之」という。)は、敬子の葬儀関係費として金五〇万円を支出した。

(三) 慰藉料

敬子を失つた原告らの悲しみは筆舌に尽しがたく、原告らそれぞれの慰藉料は各金五〇〇万円を下らない。

(四) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟を弁護士中西克夫、同塩津務及び同有馬幸夫に委任し、弁護士報酬として請求金額の一割にあたる金二四四万円を支払うことを約したので、原告らは各自金一二二万円を請求する。

6  よつて、被告ら各自に対し、原告孝之は金一三六七万五〇〇〇円、原告綿引弘子(以下「原告弘子」という。)は金一三一七万五〇〇〇円及び右各金員に対する本件事故発生日である昭和五三年五月二七日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否及び主張

(被告国)

1 請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実のうち、原告らの長女敬子(昭和四七年九月六日生)が新座団地の西側を流れる柳瀬川の水面に転落して溺死したことは認めるが、その余の事実は不知。

(二) 同2の事実のうち、被告国に関する部分は認める。

(三)(1)  同3(一)(1) の事実は認める。

(2)  同3(一)(2) の事実のうち、新座市は昭和四五年頃広大な水田地帯を有する農村地帯であつたこと及び本件事故現場の付近に被告公団の新座団地があることは認め、その余の事実は不知。

(3)  同3(一)(3) の事実のうち、本件事故当時本件河原に家庭菜園が作られていたことは認め、その余の事実は不知。

(4)  同3(一)(4) の事実のうち、河岸が雑草や赤土ですべりやすくなつていることは争い、その余の事実は不知。

(5)  同3(一)(5) の事実は不知。

(6)  同3(一)(6) の事実のうち、新座団地自治会から昭和五一年一一月二八日付で浦和及び川越各土木事務所長宛に「新座団地横柳瀬川堤防の草刈りについて(お願い)」と題する文書が提出されたことは認め、本件事故以前に草刈りがなされなかつたことは否認し、本件河原には高さ約一メートル前後の雑草が繁茂していて見通しが悪いことは争い、その余の事実は不知。

(四)(1) 同3(二)(1) の事実のうち、本件事故現場付近が農村地帯であつたこと及び家庭菜園の作られていた部分があつたことは認め、その余の本件事故現場付近の状況については不知、被告国が柳瀬川の安全管理体制を都市化した状況に対応するよう変化させる義務及び転落等による水難事故を防止する義務があるとの主張は争う。

(2)  同3(二)(2) の事実のうち、河川管理者が家庭菜園を黙認していたと評価されることについてはあえて争わないが、被告国が家庭菜園及び木柵を設置したのと同視すべきであること及び被告国において家庭菜園及び木柵の設置管理に瑕疵があるとの主張は争う。

(3)  同3(二)(3) の事実のうち、被告国が同記載の措置をとつて事故発生の危険を未然に防止すべき義務があるとの主張は争う。

(4)  同3(二)(4) の事実のうち、柳瀬川が国家賠償法二条にいう公の営造物であること、管理に瑕疵があつたこと及び被告国に損害賠償義務があるとの主張は争う。

(五) 同5の事実は争う。

2 主張

(一)本件事故現場付近の状況

(1)  柳瀬川の本件事故現場付近は、左右岸に高さ平均二・五メートル、天端幅平均三メートルの土盛りの堤防が設置されており、右堤防は公道に利用されていない。両堤防の内肩間即ち堤外地の幅は平均八〇メートルで、堤外地内の流水路は自然のままであり、河岸は、水衝部(流水路が屈曲して流水が常に当たつている部分)が堤防付近にあるため流水により堤防がえぐられ、その復旧工事により護岸のため設置された蛇籠又はコンクリートブロツクが局部的に存在する以外は、人工による護岸等の施設のない天然河岸であり、河原も自然のままで雑草が繁茂し、その幅も高さも一定していない。

(2)  本件事故現場周辺の左右沿川地帯は、多くは市街化調整区域でその殆どが農地であり、本件事故現場付近に至り被告公団の新座団地及びそれに隣接して小学校及び幼稚園が柳瀬川の右岸堤防に接して建設されているにすぎない。

(二) 河川における転落防止施設の設置について

(1)  河川管理の目的は、治水、利水、水質等環境保全であり、まず除去すべきは洪水の危険であるから、河川管理において、治水、水防に支障を来たすような管理行為は原則として許されない。

(2)  河川は通常公衆一般の自由使用に供されており、また、もともと危険が内在しているものであるから、利用者は河川の自由使用に伴う転落等の危険について十分承知しているはずであり、個々の河川利用に伴う危険は利用者たる住民みずからの責任において防除されるべきものである。

(3)  転落防止のために防護柵や危険警告の立看板を設置することは、次に述べるように河川管理上の支障となる。

防護柵や立看板を堤防天端に設置することは、防護柵等の基礎を堤防に打込むことになり、それは堤防を弱めるし、洪水時、堤防から川側にかけて行う積み土俵等の水防活動の妨げになる。

危険箇所部分の流水路の河岸に沿つて防護柵等を設置することは、本件事故現場付近の流水路は流水により自然にできたもので、その流れは変化するから、自然の川の流れによつて作出された危険箇所を常に特定し、防護柵等を設置することは不可能であるし、洪水時には、洪水の円滑な流れを阻害するばかりでなく、防護柵等の両端の付近はうず巻状態となり、流水は勢いを得て堤防腹部分を繰り返し鋭角的に直撃する結果堤防を弱めることになる。また、洪水により防護柵等が基礎ごと引き抜かれて流され、下流の堤防にぶつかりその堤防を弱めることにもなる。

(4)  本件事故現場付近は前記(一)のような状況であり、河川管理者において本件事故に対する危険性を作出したものでもなければ増大させたものでもないし、更に前述のように、本件事故現場周辺の沿川地帯は新座団地を除いてほとんど農地であること及び堤防が公道に利用されていないことを考え合わせれば、本件事故現場付近程度の危険はそこに接近する者みずからの責任において、またその者が事理弁識能力を欠く場合にはその監護者の責任において負担すべきものと解すべきであるから、柳瀬川が国家賠償法二条の公の営造物であるとしても原告ら主張のような転落防止施設を欠くものとして通常有すべき安全性を欠くものというべきでない。特に新座団地の管理者たる被告公団は、高さ一・二五メートルの金網柵を堤防法尻の団地との官民境界に沿つて設けていたのであるから、河川管理者としてはその他に防護柵を設置する必要はなおさらなかつたものである。

(三) 家庭菜園及び木柵について

本件事故現場である柳瀬川の水際(流水路)へ誰でも自由に出入することのできる状態であつたことは、家庭菜園があろうとなかろうと全く同じことであり、右家庭菜園や木柵の存在は本件事故の原因ではなく、その存在につき被告国の設置管理及びその瑕疵が問題となる余地はない。

(被告公団)

1 請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実、同3(一)(1) 、(3) ないし(5) の事実、同5の事実に対する認否は、被告国の認否と同じである。

(二) 同2の事実は認める。

(三)(1)  同3(一)(2) の事実のうち、新座市は昭和四五年頃広大な水田地帯を有する農村地帯であつたこと、被告公団は同年九月頃、本件事故現場から直線で約五〇メートルの距離にある新座市新座一帯に総戸数二二〇七戸の新座団地の建設を完了し、同年一一月頃から居住予定者が入居したことは認め、その余の事実は不知。

(2)  同3(一)(6) の事実のうち、本件河原には高さ約一メートル前後の雑草が繁茂していて見通しが悪いことは争う。

(四)(1)  同4(一)の事実は認める。ただし、本件金網柵の高さは一・二五メートルである。

(2)  同4(二)の事実のうち、本件河原に家庭菜園が作られていたこと及び本件事故当時本件金網柵に三箇所の破損部分があつたことは認めるが、その余の事実は争う。

(3)  同4(三)の事実は争う。

2 主張

(一) 被告公団は、新座団地の建設に伴い、その西側を流れる柳瀬川の河川敷に沿つて被告公団の敷地に本件金網柵を設置した。右金網柵は、高さ一・二五メートルの直線型で長さは全長六七六・一八五メートルに及び、柳瀬川に並行する部分は六三〇・〇二一メートルである。右金網柵を設置した目的は、団地の敷地と河川敷との境界を明確にするとともに、河川敷の方から第三者が濫りに団地の敷地内に入ることを防止することにあり、団地の住民が河川敷に出て柳瀬川に近づくことを防止するためのものではないので、これを管理するに際し、団地住民の外出防止を目的とする必要はなく、金網柵に幼児が潜り抜けて外出できる程度の破損部分があつたとしても、これを修復する義務はなかつた。   (二) 本件金網柵の高さは一・二五メートルで、幼児でも容易に乗り超えて西側の河川敷に出られるのであるから、右金網柵に破損部分があつても、被告公団には、本件事故につき損害賠償の責任はない。

三  抗弁

(被告国)

原告らは、昭和四六年一二月頃から新座団地に居住し、新座団地の周辺の状況を知悉していたのであるから、敬子が危険な箇所に行くことのないよう常にその行動には細心の注意を払うべき義務があつた。特に原告らの主張によれば、本件事故当時堤防法尻と団地との境界に沿つて設けられた金網柵が破られており、団地居住者や近隣の子供が頻繁にその部分を潜り抜けて本件河原に遊びに行つていたというのであるから、団地居住者として原告らは右事実を十分認識していたはずである。しかるに、原告らは、敬子の行動に注意を払うことなく放置して本件事故を惹起せしめたものであるから、かかる原告らにこそ本件事故につき重大な過失があつた。

(被告公団)

一般に幼児が一人で河川や海で遊ぶこと自体が生命に危険であり、原告らが本件事故現場付近及び柳瀬川が特に危険であることを認識していたならば、その長女敬子に対しても平常から本件金網柵の外に出ないように監護すべき義務があつたにもかかわらず、原告らがこれを怠つた結果本件事故が発生したものであり、原告らの右過失は斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

被告らの抗弁事実はいずれも争う。

第三証拠<省略>

理由

一  本件事故の発生

原告らの長女敬子(昭和四七年九月六日生)が新座団地の西側を流れる柳瀬川の水面に転落して溺死したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七ないし第一三号証、同第一六、一七号証、原告孝之本人尋問の結果を総合すれば、敬子は、昭和五三年五月二八日午前一〇時二〇分頃、新座団地内である埼玉県新座市新座三丁目五番二号付近先の西側を流れる柳瀬川の別紙図面中「X」地点の水底に溺死体となつて沈んでいるところを発見されたこと及び同月二七日午後三時頃溺水に因り窒息死したものと推定されたことが認められ、この認定に反する証拠はない。そして、右各証拠によれば、敬子は右「X」地点付近の河岸から柳瀬川の流水に転落したものと推認されるが、河岸のどの地点から、どのようにして転落したかを認めるに足りる証拠はない。

二  本件事故現場付近の状況

請求原因3(一)(1) の事実、同3(一)(2) の事実のうち、新座市は昭和四五年頃広大な水田地帯を有する農村地帯であつたこと、本件事故現場付近に被告公団の新座団地があること及び同3(一)(3) の事実のうち、本件事故当時本件河原に家庭菜園が作られていたことは当事者間に争いがなく、同3(一)(2) の事実のうち、被告公団は昭和四五年九月頃本件事故現場から直線で約五〇メートルの距離にある新座市新座一帯に総戸数二二〇七戸の新座団地の建設を完了し、同年一一月頃から入居予定者が入居したこと、請求原因4(一)の事実(ただし、本件金網柵の高さの点を除く。)及び同4(二)の事実のうち本件金網柵に三箇所の破損部分があつたことは、原告らと被告公団との間において争いがない。

成立に争いのない甲第五号証の一ないし一四、同第六号証の一ないし一〇、乙第一号証の一、二、同第二号証、同第四、五号証、丙第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二〇号証、同第二八号証、同第二九号証、前掲甲第八号証、同第一一、一二号証、原告孝之本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三、四号証、検証の結果、右本人尋問の結果、証人山田安子、同石戸始之、同静間敏之の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  新座団地は、東武東上線の志木駅より西方に約二キロメートルの地点にあり、鉄筋コンクリート造の四、五階建の建物が立ち並ぶ総戸数約二二〇〇戸の団地で、その西側には柳瀬川が南北に流れており、その両側には高さ約二・五メートルの堤防があり、右堤防間の距離は約八〇メートルである。

2  原告ら及び敬子の自宅は、新座団地五〇九号棟の五階建建物の三階にあり、右建物の北側には幅員約四メートルの舗装された道路が東西に通つており、右道路をはさんで原告ら宅の向かい側に三方を囲つた自転車置場がある。右道路の西側には、東側部分に歩道のある幅員約八メートルの舗装された公道が柳瀬川に並行して南北に通つていて、その両側には高さ約〇・八メートルのフエンスが設置されている。

3  前項の公道と、柳瀬川の東側堤防との間には、幅約二二ないし二八メートルで南北約六三〇メートルの帯状部分があり、右公道から西へ約一七ないし二三メートルの被告公団の敷地内の地点に、高さ約一・二メートル、長さ約六七〇メートルの金網柵が右堤防と並行して設置されており(以下「本件金網柵」という。)、右公道と本件金網柵との間の部分は、バレーコート、テニスコート、ミニサツカー場等のほか、主として駐車場として利用されている。右金網柵と堤防東側の法面(堤防の一番上の部分と河原又は団地敷地内との間の斜面)との間には幅約五メートルの平坦な帯状部分があり、本件事故当時、団地の一部住民は右部分を家庭菜園として使用し野菜等を栽培していたし、別紙図面中「フエンスの破損ケ所」と記載されている地点(以下「A地点」という。)は、金網柵が破損しており、大人でも屈んで通ることのできる穴があいていた。

4  柳瀬川の東側の堤防は高さが約二・五メートルあり、その法面は幅約六メートルで、なだらかな斜面となつており、天端部分は平坦で幅員約三・五メートルであり、草が繁茂しているが、人が通行する部分は草が踏み分けられ、一部裸地となつている。前項A地点から堤防の天端まで堤防の東側法面には細い道筋があり、西側の法面には北側へ斜めに道筋があり河原へ通じている。右道筋を下つた堤防法尻地点から本件事故現場へは長さが約一二、三メートルの道があり、その両側には木柵が設置されていて、道と家庭菜園の境を示す役割を果たしていた。その付近の流水路部分と堤防法尻との距離は、短いところでも約四メートル離れていた。

5  本件事故現場は、前項の木柵の西端より西方へ数メートルの地点で、本件事故当時の状況は、流水路が直径約四・五メートルの半円大に西へ彎曲しており、水流は渦を巻いていて水深は約三メートルあり、河岸は高さ約一メートルの切りたつた状態になつており、そこから一段低くて水面に手が届く場所があり、そこは草木がなく赤土の地肩が露出した斜面ですべりやすくなつていた。

6  柳瀬川の河原及び堤防の法面には、大人の背丈ほどのススキや子供の背丈ほどの雑草が、家庭菜園のある場所を除いて、自然のままの状態で一面に茂つており、堤防天端も雑草に覆われている。本件事故現場付近の流水路には、人工の工作物は存在せず自然の流れのままであり、流水路の幅や深さは流水量により変化する。柳瀬川は、水源が丘陵地帯のため、通常の流水量は少ないが、雨が降つた時には急に水かさを増し、一時間に二〇ミリメートルの降雨時(確率的にいうと、一年間に一回生じる程度である。)には、新座団地から約一キロメートル上流の英橋付近で、堤防の天端近くまで水位が上昇するほどである。

7  新座団地の住民の一部は、昭和五〇年頃から、本件河原及び本件金網柵と東側堤防との間の敷地を無許可で家庭菜園として使用し、野菜、植木等の栽培を始め、本件事故当時、本件河原には、広さ数一〇平方メートルから一〇〇平方メートルを超える規模のビニールテープなどで区画された家庭菜園が柳瀬川の流れに沿つて続いており、その数は百区画以上あり、本件事故現場付近の前記木柵の両側にも家庭菜園が作られていた。団地住民は、最初、団地の北端又は南端のフエンスのない場所を通つて、堤防及び本件河原へ行つていたが、その後家庭菜園を作つている一部の住民は、前記A地点の金網柵を破損し、そこを通りぬけて本件河原までの近道としており、前記のA地点から堤防天端を超えて本件事故現場へ至る道は、家庭菜園を作つている人達がよく通るため踏みならされてできた道であり、本件事故現場には前記5のように一段低い場所があり、そこで家庭菜園に必要な水を汲む人々もいた。家庭菜園があるため、親子連れなどがしばしば堤防上で遊ぶようになつたとともに大人ばかりか子供たちも本件河原へよく出入りしていた。本件事故以前に、団地住民らが被告国に対し家庭菜園の撤去を申入れたことはなかつた。

8  小学三年生の男子が、昭和五三年四月、本件事故現場付近で転落入水し、自力ではい上つたのを含め、同月に柳瀬川に転落入水した事故は三件起きている(ただし、いずれも死亡事故ではない。)。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  敬子の本件事故現場への経路について

原告らは、敬子が本件事故現場へ行つた経路につき別紙図面記載の赤線のとおりであると主張し、原告孝之本人尋問の結果中には右主張に副う部分がある。そして、原告孝之は、その本人尋問の際、右経路の根拠として、敬子が昭和五三年五月二七日午後一時五〇分頃友人の洞加奈子とともに自転車で花壇の方に向うのを原告弘子が自宅のトイレの窓から見ていること、花壇の方から駐車場の方へ遊びに行くのが敬子の通例のコースであること、本件事故現場の位置や敬子の死亡推定時刻(同日午後三時頃)との関係を挙げている。ところで、前掲甲第一二、一三号証によれば、敬子は同日午後二時一〇分頃友人の洞加奈子とともに自転車に乗つてミニサツカー場へ遊びに行つたこと、加奈子は、同人の母や原告弘子に対し、サツカー場の所で鉄棒をしていたら敬子がいなくなつたとかサツカー場の隅の方で花摘みをしていたら敬子がいなくなつたと話していることが認められ、原告孝之本人尋問の結果によれば、本件金網柵が破損されて堤防の方へ出入りできるようになつていたのは、A地点だけでなく、花壇の場所やミニサツカー場の所にもあつたことが認められる。そして、敬子が本件金網柵の破損された箇所から堤防へ出たとして、その箇所がA地点であるとすれば、原告孝之本人尋問の結果及び検証の結果に照らし、原告ら主張の経路が最も蓋然性が高いと考えられるが、敬子が堤防へ出たのがA地点であるのかそれともそれ以外の本件金網柵の破損された箇所からであるのか特定するに足りる証拠はなく、また、敬子が河岸のどの地点から流水へ転落したのかも明らかでないこと前記のとおりであるから、原告孝之本人尋問の結果中敬子の経路に関する前記原告らの主張に副う部分は採用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。結局、敬子がどのような経路をたどつて柳瀬川の河岸に近づき、どのようにして流水へ転落したのかは明らかでないというほかない。

四  被告国に対する請求について

1  柳瀬川は、被告国の行政庁である建設大臣が管理している一級河川(なお埼玉県知事が建設大臣から本件河川の管理の一部の委任を受けている。)であることは原告らと被告国との間に争いがない。

そこで、本件事故が柳瀬川の設置管理の瑕疵によるものか否かを検討する。

(一)  元来河川は、その流域における降雨という自然現象によつて必然的にもたらされる雨水等を集めて、これを安全に海等へ流す機能を持つものであり、河川管理の目的は、河川について、洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、及び流水の正常な機能が維持されるようこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することにある(河川法一条)。他方、河川はいわゆる自然公物たる公共用物であり、右の災害の発生の防止、河川の適正利用及び流水の正常な機能の維持という河川管理の目的に抵触しない限り、公衆一般の自由使用に供されているが、河川は水死等の水難事故の危険性を内在しているものであり、その自由使用に伴う危険は、本来利用者たる公衆(保護者も含む。)みずからの責任により回避すべきものというべきである。そして、本件のように河川の両側に堤防があり、河川内とその外部とが明確に区別され、かつ堤防間の距離が約八〇メートルあり、その間の河原及び流水路部分に特に手を加えず、自然のままの状況にある場合における転落入水等の水難事故は、河川管理者の設置にかかる堤防自体の設置管理の瑕疵により転落入水したとか、河川管理者が河川管理等のために新たな営造物を設置し又は河川の従来の状況を変更することにより、それまでに一般に予測され得た危険と異なる新たな危険を生ぜしめた場合等の事情が認められる場合のほかは、原則として、堤外の河原、流水路部分の自由使用に通常伴う危険の偶然的顕在化として、公共用物たる河川の自由使用をする者の負担する危険領域内の事故であり、河川の設置管理の瑕疵の問題は生じないと解するのが相当である。そこで、以下更に具体的に検討する。

(二)  前認定のように、柳瀬川の本件事故現場付近の河川の幅員は八〇メートルを越えその河原及び堤防の法面には、大人の背丈ほどのススキや子供の背丈ほどの雑草が、家庭菜園のある場所を除いて自然のままの状態で一面に茂つており、流水路部分は自然の流れのままであり、右部分の幅や深さは流水量により変化し一定せず、家庭菜園とその仕切のための柵及び人が通つたため踏み固められてできた道以外は、本件事故現場付近は自然のままの状態であり、人工の営造物は存在しない。堤防の天端は平坦でその幅員は約三・五メートルであり、草が繁茂しているが、人が通行する部分は草が踏み分けられ、一部裸地となつている。また堤防の法面はゆるやかな斜面であり、本件事故現場は堤防法尻から約一二、三メートル先であり、その付近の堤防に最も近い流水路部分でも、堤防法尻との距離は約四メートルある。これらの事実からすると、本件堤防は、新座団地ができたことにより従前よりは多数の人々が利用することになつたと思われるものの、公道として一般大衆に利用されているわけではないし、構造的にみても、堤防天端において堤防法面へ転倒する可能性は少ないものと思慮されるし、仮に転倒しても堤防法面にとどまり、流水路部分に直接転落入水することはとうてい考えられないから、水難事故の防止という観点からみて、堤防自体が危険なものとは認められず、堤防の設置管理に瑕疵があつたとは認められない。

(三)  原告らは、新座団地の一部居住者による本件河原における家庭菜園及び木柵の設置は、本件河原を継続的独占的排他的に使用するもので、実質的には許可使用と同じであり、被告国は右設置を黙認していたのであるから、被告国が家庭菜園及び木柵を設置したのと同視すべきであり、それを除去せずに放置していたことは、被告国において家庭菜園及び木柵の設置に瑕疵があつたというべきであると主張する。

しかしながら前認定のように、家庭菜園及び木柵は、新座団地の一部の住民が野菜や植木等を栽培するため無許可で設置し、自ら管理していたものであり、被告国はその設置管理に全く関与していないし、本件事故以前に団地住民らが被告国に対し、その撤去を申入れたことはなかつたことからすると、被告国が家庭菜園及び木柵を設置したのと同視することは困難である。のみならず、家庭菜園は、大人や子供達が本件河原へ近づく頻度を高める要因になつたことは否定し得ないとしても、家庭菜園及び木柵自体は危険なものとはいえないこと、もともと堤防から本件河原を通り誰でも容易に柳瀬川の流水路へ近づくことができる状況であつたのであり、家庭菜園及び木柵の設置により流水路へ近づくことが容易になつたものではないこと、柳瀬川の見通しは家庭菜園によつて影響を受けず、流水路の存在及びその危険性を容易に認識できることからして、家庭菜園及び木柵の設置により、柳瀬川に新たな危険を生ぜしめたと認めることはできない。したがつて、原告らの右主張は失当というべきである。

(四)次に、原告らは、被告国が河川の管理権により家庭菜園及び木柵を撤去させなかつたこと、本件事故現場などの危険箇所の河岸の直近に沿つて転落防止のための防護柵を設置しなかつたこと、堤防上などに立入禁止や危険警告の立看板を立てなかつたこと、堤防天端や本件河原から柳瀬川の危険な状況を一望のもとに了解できるように本件河原の雑草を刈り取るべきなのにそれをしなかつたことをもつて、柳瀬川の管理に瑕疵があると主張する。そもそも前述のように、水難事故に関していえば、自己の危険負担において河川を自由使用する公衆に対して、河川管理者は、当該自由使用に通常伴う河川の危険についてこれを除去すべき義務はなく、かかる危険の存在をもつて河川が通常有すべき安全性を欠くものとはいえないのであるから、河川の設置管理が問題となるのは、河川管理者の設置にかかる堤防自体の設置管理に瑕疵があるか、河川管理者が河川管理等のために新たな営造物を設置し又は河川の従来の状況を変更することにより新たな危険を生ぜしめたような事情のある場合に限られるところ、原告らの右主張は、それ自体右の事情が認められる場合に該当しないと解されるが、なお若干の検討を加えることとする。

家庭菜園及び木柵の撤去の点については、前述のように家庭菜園及び木柵の存在によつて柳瀬川に新たな危険を生ぜしめたとは認められないので、被告国がそれらを撤去させなかつたからといつて、柳瀬川について国家賠償法二条一項でいう管理に瑕疵があるとはいえない。また前認定のように、本件柳瀬川は、本件事故現場付近においては、堤防と堤防との距離は約八〇メートルあり、その中を自然作用により作出された流水路部分があつて、河水が流れているのであり、その流水路の幅や深さは流水量により変化し一定しないし、流水路部分それ自体も、自然作用により移動変化することが予想されるのであつて、原告らが主張する意味での危険箇所は、時の推移とともに変化する。そして、堤外地内における右のような流水路部分の移動変化は既にみた河川管理の目的に反するような例外的事情のある場合以外は、河川管理上も当然に許容されているということができる。のみならず、成立に争いのない乙第七号証の一ないし六及び証人静間敏之の証言を総合すると、流水路部分の直近に沿つて転落防止のための防護柵や本件河原に警告の立看板を設置すると、洪水時に設置した場所自体が壊れやすくなるし、右防護柵等が水によつて流され、下流の堤防や橋脚等にあたり、それらを壊すことがありうるし、堤防天端に警告の立看板を設置することは、堤防自体を弱め、洪水時に堤防決壊のおそれを増大させるとともに、堤防の川側の法面を保護するための水防活動を阻害する場合が生ずることが推認される。そうすると、原告ら主張の流水路部分の直近に沿つて転落防止のための防護柵が設置されていないことをもつて、河川の管理に瑕疵があるということはできない。また、河川内(堤外)はそもそも水難の危険性を有しているのであり、河川の外部と内部とは堤防によつて明確に区分できるのであるから、警告の立看板がなかつたこと、あるいは、それ自体危険なものとはいえない雑草を刈り取つていなかつたことをもつて河川の管理に瑕疵があるということもできない。

2  以上によれば、被告国に柳瀬川の設置管理に瑕疵があつたとは認められないから、原告らの被告国に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

五  被告公団に対する請求について

1  被告公団が昭和四五年九月二二日以降新座団地の建物及びその敷地等を管理していることは、原告らと被告公団との間に争いがない。

成立に争いのない丙第一号証、現場の写真であることに争いのない丙第二号証の一ないし四及び証人石戸始之の証言を総合すると、新座団地には柳瀬川の東側堤防に沿つて約六三〇メートルにわたり本件金網柵があるほか、団地内にある給水場及び汚水処理場の回りにも金網柵(以下「給水場等の金網柵」という。)があり、その構造は高さが約一・八メートルでその上にいわゆる忍返しと呼ばれる高さ約三〇センチメートルの道路側に傾斜し有刺鉄線が横に張つてある部分があり、本件金網柵とは内部への侵入を防止するという点において非常に異なつた構造であること、被告公団において本件金網柵を設置した目的は、団地の境界沿いに境界を表示するため及び外部からの侵入者を防ぐためであること、他方給水場等の金網柵は第三者が内部に侵入するのを防止することを目的としていることが認められる。もつとも、本件金網柵は、客観的には、その存在により新座団地の居住者が柳瀬川の堤防へ出ることを若干困難にする機能も果たしていることは否定できない。

2  前記認定のように、本件金網柵は、別紙図面中A地点ほか二箇所において破損されていて大人でも屈んで通ることのできる穴があいていたことが認められる。しかしながら右認定の金網柵の目的、前認定のように右破損箇所を通り抜けた地点の約五メートル先から、なだらかな斜面となつている幅六メートルの柳瀬川の東側堤防の法面があり、前述のように右堤防自体は危険な場所とはいえないこと及び本件事故は、敬子が堤防を下つて河原へ行き柳瀬川の流水路部分に近づいたため生じたものであることからすると、本件金網柵の破損と本件事故との間には相当因果関係はないと解するのが相当である。

3  してみれば、原告らの被告公団に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

六  以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田豊三 宗宮英俊 土屋哲夫)

(別紙)図面<省略>

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